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着いてみたらば、そこはとある群島の中の小さな島。
次のログが指す島が、
どうかすると目視で認められるほどという地点に位置する、
色んな意味合いから微妙な小島で。
直前の島は結構遠いため知りようがなくの仕方がないことながら、
きっちりとログを辿ってやって来た顔触れは、
そのあまりの可愛さから、ありゃりゃあとついつい口を開いてしまうほど。
「何でも、そもそもはこの群島全部が1つの島だったらしいんだと。」
さすがはグランドラインで、
人を寄せ付けなかった頃の知られざる色々の中には、
そういった仰天動地なことも少なくないらしく。
「それが、えっと…何て言ったかな? ま、まんとら?」
「マントルじゃないのか?」
「そうそう、それの上に浮いてる大陸プレートとかいうのが、
ゆっくりじわじわ移動してった時期があったらしくて。
そんな作用が此処へも働いてのこと、
何千年とかかっての少しずつ、泣き別れになってったらしくてな。」
スープに浮かせた白身魚の浮き実を、
おたまの先でつつつと引き離して見せるサンジなのへ、
「凄いなぁ、サンジ。
料理や食材のこと以外に、そういうことにも詳しいんだvv」
マントルという訂正をしてやった小さなトナカイドクターが、
心から感心したぞと、鈴を転がすようなお声で称賛すると。
見た目のみならず年齢的にも年下の彼から、
なのに、もっとずんと詳しい身ならではな、
賢いフォローがあったのへ多少ならずとも鼻白らむか…と思いきや、
「いや何、沢ガニを売ってた店のお姉さんに教わっただけだがな。」
湯がいたのを丁寧に身ほぐしまでしてあって、
そりゃあ地味豊かで美味しかったその上に、
「そのお姉さんがまた、チューブトップがお似合いの美人で…vv」
「そ、そうだったのか。」
彼らしい方向へと脱線するのも相変わらず。(苦笑)
美味しい御馳走の並んだテーブルに着いた一味の面々、
ブルック以外は町まで補給のための買い物に出ていたものの、
そういったお話までは聞いて来なかったようで。
「その祭りとかいうのの準備で忙しかったのか、
こっちが必要なことしか口にしなかったんで、
恐持てなよそ者相手にわざわざ言わなんだのか。」
フランキーの推察は、こっちが海賊だということもあっての、
まったくもって ごもっともという内容だったが、
「とはいえ、そうそう警戒されるのも罪なもんだし。
おっかなさげなクールな態度もほどほどにしねぇとな。」
うんうんうんと感慨深げに頷いているウソップの様子には、
久し振りの陸歩きで食が進んでいたナミが、
フォークを操る手をわざわざ止めて聞き返しており。
「…やだ、どっかのお店で怖がられたの?あんた。」
それへ、いかにも鹿爪らしくゆったりとかぶりを振ると、
「いや、俺自身は気がつかなんだが。」
だがだが、
そういうものは得てして気がつかないもんだから…なんて、
一端の豪傑気取りで続けるものだから、
「大丈夫よ、安心なさい。」
あんたはむしろとっつきやすいキャラクターなんだから、
見ない顔だと怪しまれることはあっても、恐れられたりはしないわよと。
航海士さんがそれはご陽気にからから笑って、
ど〜んと押して下さったのが、これまた豪気な太鼓判だったりし。
「……それってあんまり喜べんのだが。」
が、がんばれウソップっ。(こらこら)
かように、なかなかほのぼのとした団欒の中で食卓を囲めるほど、
海賊と言えばの概念からも相当外れたこちらの皆様だが、
「にしても、
そういう特殊な事情もあっての不思議な宝珠なんでしょうね。」
石英が集まって表面へくっつき、
それが特別な声に反応してきらきらと輝くような、
そんな不思議な石が自然に出来てしまうなんて。
「昔からあったっていう“聖なる泉”に涌く水というのが、
随分な硬水なのかもしれないけれど。
その効果のせいだとしても、
そうまではっきりした現象が起きるなんてね。」
昔の人からすれば、途轍もない神憑りだったに違いなく。
自然現象ってつくづくと奥が深いわよねぇと、
チョッパーへ話しかけたロビンではあったが、
「そういう現象を、
音叉で何とかなるなんて、あっさり見抜いてしまわれたのですよね。」
彼自身もある意味たいそうな奇跡の存在じゃあなかろうかの、
こちらは骸骨クルーのブルックが、
大したもんだとやたら感心して見せたのも道理。
さすがは様々なことへ精通しているお姉様で、
「わたくしも、音の波長や旋律によっては、
人を不快にさせたり眠らせたり、
動物を集めたり大人しくさせたりという
目に見えぬ効果があるのは存じておりましたが。」
「いや、お前ほどの効果出せる奴は珍しいって。」
そうそう。
バイオリンでの演奏一節(ひとふし)で、
戦闘中というカッカしている相手を眠らせちゃうなんて。
どれほどのこと、訴えかけの強い演奏であるのやら。
あらあら褒められてしまいましたよ、よほほ〜いvvと、
判りにくいがどうやら照れておいでらしい最年長新人の傍らから。
「…でも、酒場の歌姫んなった契約ってのは、
断るつもりもねぇんだろ?お前ぇら。」
剣豪さんからの低い声がすぱりと割り込んで来たのへは、
「勿論。」
こちらも怯まず、大きく頷いたナミさんだった…のは
やはりやはり言うまでもない話だったりする。
「言ったでしょ? ここんところ実入りが少ないの。
着いたところで ひと働きしての、
現物支給いただいてる例もなくはないとはいえ、
航海している身のあたしたちには、
ベリーやインゴット、
広く流通しているお金や、金銀宝石の方が融通が利くのよ。」
有名になるのも善し悪しで、
以前はまだ、
莫大な賞金額と船長本人の童顔痩躯のギャップに目が眩み、
何かの間違いで懸けられた大金じゃねぇか、
実は大したことねぇんだってと勝手に解釈し、
無謀にも喧嘩を吹っかけてくる、
お馬鹿な賞金稼ぎや小者海賊が結構多かったのに。
(そして、そういう輩から、
船の修理代とか、暇つぶしに付き合った対価とか、
いっそ“ファイトマネー”だとかいって、
大枚むしりとってた金融庁だったのだが。)
このごろでは、
あの大物を伸した一味だ、あの難所を突破してここまで来た連中だという、
実力への確たる裏書が重なってるお陰様、
そういう無鉄砲さんたちもなかなか寄って来なくなっており。
いっそ賞金首を狩って海軍の出張所へ引き渡しに行きましょか、
よせよせ、持って来た奴の方が高額だなんて洒落にもならんぞ、
そうよ、居合わせた全員に飛び掛かられるわよ、と。
どこまで冗談か、
そんな話になったくらい逼迫してるっちゃあ逼迫してもおり。
「こうなったら遠慮もなしよ。
というか、
本物で今年も連破間違いない歌姫さんと知り合ってたなんて、
却って心強いってもんかも知れない。」
「おいおい。」
どこまで回る悪知恵かと。
ウソップがフランキーが、そしてゾロが、
彼女の善からぬ思惑を見越したかのように、
窘めるような声を出し、
「言っとくが、あのって子は随分と直情的で、
しかもヘルメデスとかいうあのおっさんに腹立ててたから、
手加減なんて一切構えねぇと思うぜ?」
どこの誰が頭下げてもなと、
敢えて言い足したゾロだったのだけれども。
「あら、アタシそんな悪いこと企んでないもの。
ねぇ? ルフィ〜〜vv」
これだって決して賄賂なんかじゃなくってよと、
自分のお皿に2つもあった内から、
大きいほうの骨つき鷄もも肉の照り焼きという御馳走を、
ほれと差し出しているナミさんだったので、
“ホントかなぁ〜〜?”
どんなに肘を寄せての
“きゃるんvv”という可愛らしいポーズをとったところで。
日頃の彼女が彼女なだけに、
クルーの男性陣 ほぼ全員が(一名ほどは しっかと悩殺されたようだが)
怪訝そうに小首を傾げてしまったり
目許を眇めてしまったりしたのだけれども。
そして、
さすがにそういう空気はひしひし感じたか、
「だから。
何もそっちの彼女さんにまで
一枚咬ませるつもりなんてないって言ってるのよ。」
こちらも態度を元へと戻した、みかん色の髪の航海士さんとしては。
あぐりと一口で賄賂を平らげたルフィを指差して、
「大体、細かいことを打ち合わせられる奴でもないし。」
「はっきり言うのね、本人を目の前にして♪」
お茶目さんだったらvvと、
いかにも微笑ましいと目許を細めるロビンなのも
この際は仕様なのでさておくとして。(…いいのか、さておいて)
「だから。あたしが言った“却って心強い”っていうのはね。」
彼女にまで言い含めて進めるつもりの、
悪巧みだの計画だのがあるってワケじゃあなくてねと。
今はまだ、何とはなくの輪郭だけならしいその心積もりを、
しょうがないわねと語り始めたのであったが……。
◇◇◇
どんなに鄙びた片田舎であれ、れっきとしたログの連なりの一端という、偉大な航路に添うての外海からの出入りがあるほどには、人の交流や物流がある土地なのだから。航路を通じて共通の政府通貨が流通してもおり、それを落としてってくれる客も有りで、そんなお方々を目当ての歓楽街もどき、一夜しのぎの憩いにと、お酒を飲めるよな場所も一応はあったりし。そういうお店としては、こういう土地柄なればこそ、生真面目に商売して小金を持ってる旦那衆やら、入港する船を誘導する水先案内関係だの荷役だの、島のにぎわいを支える土地の男衆の方こそ得意先…だとはいえ、だからといって甘い商売はいたしません。ツケはきっちり取り立てますし、払いのためなら、土地やら娘さんやら容赦なく掻っ攫いもするらしく。いやいや酌婦なんてやらされている、女性もいるとかいないとか。
「でもまあ、
もっとにぎやかな土地ほど えげつなくはないのが救いかな。」
幼いころから、故郷を遠く離れた土地にて、海賊や悪名高い金満家の隠し金をちょろまかしていた、そこだけは手配書通りに“泥棒”だった経歴持ちのナミがこそりと呟けば、
「そうかしら。
こういう土地だからこそ、これで十分、
外聞が悪いことをやらされていることになるんじゃなくて?」
そちらさんはもっと苛酷に、やはり幼いうちに国際手配を受けた反動、暗黒街をこそ渡り歩いて生きて来た強わもののロビンが、ナミ以上の尋深い目線での感慨を呟いたところで、
「やあやあ、あんたらか。よう来たね。」
カウンターに肘をついての、片やは背中側で、片やは正面から凭れかかるという、小粋な姿勢が様になる美女二人。支配人から話は聞いていたらしい、ご機嫌そうな声を出し、そんな彼女らへと愛想を振り撒くおじさんが出て来たのへと。樽のようなという話をこちらも聞いていたので、あれが問題の、いやさ話題のオーナー様らしいなと。すぐさま見分けのついた知恵者二人が、あらまあと にこり(にやり?)と微笑って身を起こす。
「何でも歌には自信のお人ららしいが、
今ウチが欲しいのは、ただの歌い手じゃあないんだ。
それも判っておいでかの?」
どこから首でどこから肩かが曖昧なほど、コロンとした体型は、成程“ハンプティダンプティ”だわねと。とかいう子が言ったらしい描写へ、今更ながらに合点がいったナミがついつい一瞬出遅れたのへ、
「ええ。
何でも、曰くのある神事にまつわる、
特別な声でないといけないのだとか。」
ご自身のミステリアスな風貌をよくよく心得ておいでなものか。深色の双眸を意味深に細めると、静かに微笑って見せたロビンさん。
「神事についての調査も済ませて来ましたが、
それよりもずっと、そちら様には判りやすいお話もありますの。」
ふふふと口許をひいての柔らかく微笑ったお顔へこそ、吸い込まれそうになったオーナーさんだったが。そこへと付け足されたナミさんのお声、
「このところの聖なる歌姫に泉から選ばれ続けておいでの、
聖歌隊のお嬢さん。
確か、さんとかいう女の子と、
私どもの仲間が親しくなったらしくって。」
「………っ☆」
そんな具体的な文言へは。水をかけられたような素早い反応、はっと我に返ったそのまま、ええっ?と金壺まなこを見開いたので、
「覚えてらっしゃいませんか?
昨日、教会で顔を合わせた観光客二人。」
そうと付け足し、こちらはちょっぴり計算高く笑った、セクシーキュートなお嬢さんだったのへ。やや反応がずれつつも…自分たちという存在へびくともしなかった連中、そこは忘れ難い顔ぶれでもあったものか。このおじさんにしては割と早い反射で思い出せたようであり。
「 おお、あの二人は君らのお仲間だったのかい。」
「ええ。」
大きく頷いたナミさんに代わって、音もなく二人の背後へ、鋭い警戒つきで回り込んでいた Mr.用心棒と、真っ向から向かい合う位置へその身をすべり込ませた黒髪のお姉様。脅しやゆすりなど、下手な言いようを繰り出したなら、有無をも言わさず制裁するぞとしたかったらしい寡黙な男を、こちらからも挑発的に見据えると、
「だからこその搦め手も使える、
彼女が選ばれたとしても こちらは安泰ということを、
お知らせに来たまでですのよ。」
うふふとしっとり、低いお声で告げた考古学者のお姉様だったのでございます。
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*あんまり話が進んでませんですいません。
オールキャストの冒険話は久々なので、
出来れば隈なく、どの子にも顔出しの機会をあげたくて。
ついつい、会話のシーンが長引きます。

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